所の棒が揃《そろ》つて飛出《とびだ》す、麻上下《あさがみしも》が群れ騒ぐ、大玄関《おおげんかん》まで騒動の波が響いた。
 驚破《すわ》、そのまぎれに、見物の群集《ぐんじゅ》の中から、頃合《ころあい》なものを引攫《ひきさら》つて、空からストンと、怪我《けが》をせぬやうに落《おと》いた。が、丁度《ちょうど》西の丸の太鼓櫓《たいこやぐら》の下の空地だ、真昼間《まっぴるま》。」
「妙《みょう》。」
 と、山伏がハタと手を搏《う》つて、
「御坊《ごぼう》が落した、試みのものは何ぢや。」
「屑屋《くずや》だ。」
「はて、屑屋とな。」
「紙屑買《かみくずかい》――即《すなわ》ち此だ。」
 と件《くだん》の大笊《おおざる》を円袖《まるそで》に掻寄《かきよ》せ、湖の水の星あかりに口を向けて、松虫《まつむし》なんぞを擽《くすぐ》るやうに笊《ざる》の底を、ぐわさ/\と爪で掻くと、手足を縮めて掻《かい》すくまつた、垢《あか》だらけの汚《きたな》い屑屋が、ころりと出た。が、出ると大きく成つて、ふやけたやうに伸びて、ぷるツと肩を振つて、継ぎはぎの千草《ちぐさ》の股引《ももひき》を割膝《わりひざ》で、こくめいに、枯
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