。――いや、夥《おびただ》しい人群集《ひとだかり》だ。――そのうちに、鳶の羽《は》が、少しづゝ、石垣の間《あいだ》へ入る――聊《いささ》かは引いて抜くが、少しづゝ、段々に、片翼《かたつばさ》が隠れたと思ふと、するりと呑《の》まれて、片翼だけ、ばさ/\ばさ、……煽《あお》つて煽つて、大《おお》もがきに藻掻《もが》いて堪《こら》へる。――見物は息を呑《の》んだ。」
「うむ/\。」
 と、山伏《やまぶし》も息を呑む。
「馬鹿鵄《ばかとび》よ、くそ鳶《とび》よ、鳶《とんび》、鳶《とんび》、とりもなほさず鳶《とび》は愚僧だ、はゝゝゝ。」
 と高笑ひして、
「何と、お行者《ぎょうじゃ》、未熟なれども、羽黒の小法師《こほうし》、六|尺《しゃく》や一|丈《じょう》の蛇《ながむし》に恐れるのでない。こゝが術《て》だ。人間の気を奪ふため、故《ことさ》らに引込《ひきこ》まれ/\、やがて忽《たちま》ち其《その》最後の片翼《かたつばさ》も、城の石垣につツと消えると、いままで呼吸《いき》を詰めた、群集《ぐんじゅ》が、阿《あ》も応《おう》も一斉《いっとき》に、わツと鳴つて声を揚げた。此の人声《ひとごえ》に驚いて、番
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