上野の森を一《ひと》のしに、濠端《ほりばた》の松まで飛んで出た。かしこの威徳|衰《おとろ》へたりと雖《いえど》も、さすがは征夷《せいい》大将軍の居城《きょじょう》だ、何処《いずこ》の門も、番衆、見張、厳重にして隙間《すきま》がない。……ぐるり/\と窺《うかが》ふうちに、桜田門の番所|傍《そば》の石垣から、大《おおき》な蛇《へび》が面《つら》を出して居るのを偶《ふ》と見つけた。霞《かすみ》ヶ|関《せき》には返り咲《ざき》の桜が一面、陽気はづれの暖かさに、冬籠《ふゆごも》りの長隠居、炬燵《こたつ》から這出《はいだ》したものと見える。早《は》や往来《おうらい》は人立《ひとだち》だ。
処《ところ》へ、遙《はるか》に虚空《こくう》から大鳶《おほとび》が一羽《いちわ》、矢のやうに下《おろ》いて来て、すかりと大蛇《おおへび》を引抓《ひきつか》んで飛ばうとすると、這奴《しゃつ》も地所持《じしょもち》、一廉《いっかど》のぬしと見えて、やゝ、其の手は食《く》はぬ。さか鱗《うろこ》を立てて、螺旋《らせん》に蜿《うね》り、却《かえ》つて石垣の穴へ引かうとする、抓《つか》んで飛ばうとする。揉《も》んだ、揉んだ
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