りに、十二|間《けん》のお廊下へドタリと遣《や》つた。」
「おゝ御館《おやかた》では、藤の局《つぼね》が、我折《がお》れ、かよわい、女性《にょしょう》の御身《おんみ》。剰《あまつさ》へ唯《ただ》一人にて、すつきりとしたすゞしき取計《とりはから》ひを遊ばしたな。」
「ほゝう。」
 と云つた山伏《やまぶし》は、真赤な鼻を撮《つま》むやうに、つるりと撫《な》でて、
「最早知つたか。」
「洛中《らくちゅう》の是沙汰《これさた》。関東一円、奥州まで、愚僧が一山《いっさん》へも立処《たちどころ》に響いた。いづれも、京方《きょうがた》の御為《おんため》に大慶《たいけい》に存ぜられる。此とても、お行者のお手柄だ、はて敏捷《すばや》い。」
「やあ、如何《いかが》な。すばやいは御坊ぢやが。」
「さて、其が過失《あやまり》。……愚僧、早合点《はやがてん》の先ばしりで、思ひ懸《が》けない隙入《ひまいり》をした。御身《おみ》と同然に、愚僧|等《ら》御司配《ごしはい》の命令《おおせ》を蒙《こうむ》り、京都と同じ日、先《ま》づ/\同じ刻限に、江戸城へも事を試みる約束であつたれば、千住《せんじゅ》の大橋《おおはし》、
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