蟇《がま》の多き処なるが、乞食僧は巧《たくみ》にこれを漁《あさ》りて引裂き啖《くら》うに、約《おおむ》ね一夕《いっせき》十数疋を以て足れりとせり。
 されば乞食僧は、昼間|何処《いずく》にか潜伏して、絶えて人に見《まみ》えず、黄昏《こうこん》蝦蟇の這出《はいい》づる頃を期して、飄然《ひょうぜん》と出現し、ここの軒下、かしこの塀際、垣根あたりの薄暗闇《うすくらやみ》に隠見しつつ、腹に充《み》たして後はまた何処《いずかた》へか消え去るなり。

       二

 ここに醜怪なる蝦蟇法師《がまほうし》と正反対して、玲瓏《れいろう》玉を欺く妙齢の美人ありて、黒壁に住居《すまい》せり。渠《かれ》は清川お通とて、親も兄弟もあらぬ独身《ひとりみ》なるが、家を同じくする者とては、わずかに一|人《にん》の老媼《おうな》あるのみ、これその婢《ひ》なり。
 お通は清川|何某《なにがし》とて、五百石を領せし旧藩士の娘なるが、幼にして父を失い、去々年《おととし》また母を失い、全く孤独の身とはなり果てつ、知れる人の嫁入れ、婿|娶《と》れと要らざる世話を懊悩《うるさ》く思いて、母の一周忌の終るとともに金沢の家を引
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