妖僧記
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黒壁《くろかべ》は

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)加賀の国|黒壁《くろかべ》は

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)蝦蟇法師は※[#「りっしんべん+呉」、第3水準1−84−50]《あやま》りて
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       一

 加賀の国|黒壁《くろかべ》は、金沢市の郊外一|里程《りてい》の処にあり、魔境を以《もっ》て国中《こくちゅう》に鳴る。蓋《けだ》し野田山《のだやま》の奥、深林幽暗の地たるに因れり。
 ここに摩利支天を安置し、これに冊《かしず》く山伏の住《すま》える寺院を中心とせる、一落《いちらく》の山廓《さんかく》あり。戸数は三十有余にて、住民|殆《ほとん》ど四五十なるが、いずれも俗塵《ぞくじん》を厭《いと》いて遯世《とんせい》したるが集りて、悠々閑日月を送るなり。
 されば夜《よ》となく、昼となく、笛、太鼓、鼓などの、舞囃子《まいばやし》の音に和《か》して、謡《うたい》の声起り、
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