の美人を捧げざれば、到底|好《よ》き事はあらざるべしと、恫※[#「りっしんべん+曷」、第4水準2−12−59]的《どうかつてき》に乞食僧より、最も渠《かれ》を信仰してその魔法使たるを疑わざる件《くだん》の老媼に媒妁《なかだち》すべく言込みしを、老媼もお通に言出しかねて一日《いちじつ》免《のが》れに猶予《ためらい》しが、厳しく乞食僧に催促されて、謂《い》わで果つべきことならねば、止むことを得で取次たるなり。しかるにお通は予《あらかじ》めその趣を心得たれば、老媼が推測りしほどには驚かざりき。
美人は冷然として老媼を諭しぬ、「母上の世に在《いま》さば何とこれを裁きたまわむ、まずそれを思い見よ、必ずかかる乞食の妻となれとはいいたまわじ。」と謂われて返さむ言《ことば》も無けれど、老媼は甚だしき迷信|者《じゃ》なれば乞食僧の恐喝《きょうかつ》を真《まこと》とするにぞ、生命《いのち》に関わる大事と思いて、「彼奴《かやつ》は神通広大《じんずうこうだい》なる魔法使にて候えば、何を仕出《しい》ださむも料《はか》り難《がた》し。さりとて鼻に従いたまえと私《わたくし》申上げはなさねども、よき御分別もおわさぬ
前へ
次へ
全18ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング