か。」と熱心に云えば冷《ひやや》かに、「いや、分別も何もなし、たといいかなることありとも、母上の御心《みこころ》に合わぬ事は誓ってせまじ。」
 と手強き謝絶に取附く島なく、老媼は太《いた》く困《こう》じ果てしが、何思いけむ小膝《こひざ》を拍《う》ち、「すべて一心|固《かたま》りたるほど、強く恐しき者はなきが、鼻が難題を免れむには、こっちよりもそれ相当の難題を吹込みて、これだけのことをしさえすれば、それだけの望《のぞみ》に応ずべしとこういう風に談ずるが第一手段《いちのて》に候なり、昔語《むかしがたり》にさること侍《はべ》りき、ここに一条《ひとすじ》の蛇《くちなわ》ありて、とある武士《もののふ》の妻に懸想《けそう》なし、頑《かたくな》にしょうじ着きて離るべくもなかりしを、その夫|何某《なにがし》智慧《ちえ》ある人にて、欺きて蛇に約し、汝《なんじ》巨鷲《おおわし》の頭|三個《みつ》を得て、それを我に渡しなば、妻をやらむとこたえしに、蛇はこれを諾《うべな》いて鷲と戦い亡失《ほろびう》せしということの候なり。されど今|憖《なまじい》に鷲の首などと謂《い》う時は、かの恐しき魔法使の整え来ぬとも料《
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