「コヤ老媼、汝《なんじ》の主婦を媒妁《なかだち》して我《わが》執念を晴らさせよ。もし犠牲《いけにえ》を捧げざれば、お通はもとより汝もあまり好《よ》きことはなかるべきなり、忘れてもとりもつべし。それまで命を預け置かむ、命冥加《いのちみょうが》な老耆《おいぼれ》めが。」と荒《あら》らかに言棄《いいす》てて、疾風土を捲《ま》いて起ると覚しく、恐る恐る首《こうべ》を擡《もた》げあぐれば、蝦蟇法師は身を以て隕《おと》すが如く下《くだ》り行《ゆ》き、靄《もや》に隠れて失《う》せたりけり。
やれやれ生命《いのち》を拾いたりと、真蒼《まっさお》になりて遁帰《にげかえ》れば、冷たくなれる納台《すずみだい》にまだ二三人居残りたるが、老媼の姿を見るよりも、「探検し来りしよな、蝦蟇法師の住居《すまい》は何処《いずこ》。」と右左より争い問われて、答うる声も震えながら、「何がなし一件じゃ、これなりこれなり。」と、握拳《にぎりこぶし》を鼻の上にぞ重《かさね》たる、乞食僧の人物や、これを痴《ち》と言《いわ》むよりはたまた狂と言むより、もっとも魔たるに適するなり。もししからずば少なくとも魔法使に適するなり。
かかり
前へ
次へ
全18ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング