ばらばらと玉が走る。窓の硝子を透《すか》して、雫《しずく》のその、ひやりと冷たく身に染むのを知っても、雨とは思わぬほど、実際|上《うわ》の空でいたのであった。
 さあ、浅草へ行《ゆ》くと、雷門が、鳴出したほどなその騒動《さわぎ》。
 どさどさ打《ぶち》まけるように雪崩《なだ》れて総立ちに電車を出る、乗合《のりあい》のあわただしさより、仲見世《なかみせ》は、どっと音のするばかり、一面の薄墨へ、色を飛ばした男女《なんにょ》の姿。
 風立つ中を群《むらが》って、颯《さっ》と大幅に境内から、広小路へ散りかかる。
 きちがい日和《びより》の俄雨《にわかあめ》に、風より群集が狂うのである。
 その紛れに、女の姿は見えなくなった。
 電車の内はからりとして、水に沈んだ硝子函《がらすばこ》、車掌と運転手は雨にあたかも潜水夫の風情に見えて、束《つか》の間《ま》は塵《ちり》も留めず、――外の人の混雑は、鯱《しゃち》に追われたような中に。――
 一帆は誰よりも後《おく》れて下りた。もう一人も残らないから、女も出たには違いない。

       三

 が、拍子抜けのした事は夥多《おびただ》しい。
 ストンと
前へ 次へ
全29ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング