妖術
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)四辺《あたり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)両|三日《さんち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》いて
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       一

 むらむらと四辺《あたり》を包んだ。鼠色の雲の中へ、すっきり浮出したように、薄化粧の艶《えん》な姿で、電車の中から、颯《さっ》と硝子戸《がらすど》を抜けて、運転手台に顕《あら》われた、若い女の扮装《みなり》と持物で、大略《あらまし》その日の天気模様が察しられる。
 日中《ひなか》は梅の香も女の袖《そで》も、ほんのりと暖かく、襟巻ではちと逆上《のぼ》せるくらいだけれど、晩になると、柳の風に、黒髪がひやひやと身に染む頃。もうちと経《た》つと、花曇りという空合《そらあい》ながら、まだどうやら冬の余波《なごり》がありそうで、ただこう薄暗い中《うち》はさもないが、処を定めず、時々墨流しのように乱れかかって、雲に
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