雲が累《かさ》なると、ちらちら白いものでも交《まじ》りそうな気勢《けはい》がする。……両|三日《さんち》。
今朝は麗《うらら》かに晴れて、この分なら上野の彼岸桜《ひがん》も、うっかり咲きそうなという、午頃《ひるごろ》から、急に吹出して、随分風立ったのが未《いま》だに止《や》まぬ。午後の四時頃。
今しがた一時《ひとしきり》、大路が霞《かすみ》に包まれたようになって、洋傘《こうもり》はびしょびしょする……番傘には雫《しずく》もしないで、俥《くるま》の母衣《ほろ》は照々《てらてら》と艶《つや》を持つほど、颯《さっ》と一雨|掛《かか》った後で。
大空のどこか、吻《ほっ》と呼吸《いき》を吐《つ》く状《さま》に吹散らして、雲切れがした様子は、そのまま晴上《あが》りそうに見えるが、淡く濡れた日脚《ひあし》の根が定まらず、ふわふわ気紛《きまぐ》れに暗くなるから……また直きに降って来そうにも思われる。
すっかり雨支度《あまじたく》でいるのもあるし、雪駄《せった》でばたばたと通るのもある。傘《からかさ》を拡げて大きく肩にかけたのが、伊達《だて》に行届いた姿見よがしに、大薩摩《おおざつま》で押して行
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