》な顔の働きは、たとえば口紅を衝《つ》と白粉《おしろい》に流して稲妻を描いたごとく、媚《なまめ》かしく且つ鋭いもので、敵あり迫らば翡翠《ひすい》に化して、窓から飛んで抜けそうに見えたのである。
一帆は思わず坐り直した。
処へ、女中が膳《ぜん》を運んだ。
「お一ツ。」
「天気は?」
「可《いい》塩梅《あんばい》に霽《あが》りました。……ちと、お熱過ぎはいたしませんか。」
「いいえ、結構。」
「もし、貴女《あなた》。」
女が、もの馴《な》れた状《さま》で猪口《ちょく》を受けたのは驚かなかったが、一ツ受けると、
「何うぞ、置いて去《い》らしって可《よ》うござんす。」と女中を起《た》たせたのは意外である。
一帆はしばらくして陶然《とうぜん》とした。
「更《あらた》めて、一杯《ひとつ》、お知己《ちかづき》に差上げましょう。」
「極《きまり》が悪うござんすね。」
「何の。そうしたお前さんか。」
と膝をぐったり、と頭《こうべ》を振って、
「失礼ですが、お住所《ところ》は?」
「は、提灯《ちょうちん》よ。」
と目許《めもと》の微笑《ほほえみ》。丁《ちょう》と、手にした猪口を落すように置く
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