と、手巾《ハンケチ》ではっと口を押えて、自分でも可笑《おかし》かったか、くすくす笑う。
「町名、町名、結構。」
 一帆は町名と聞違えた。
「いいえ、提灯なの。」
「へい、提灯町。」
 と、けろりと馬鹿気た目とろでいる。
 また笑って、
「そうじゃありません。私の家《うち》は提灯なんです。」
「どこの? 提灯?」
「観音様の階段の上の、あの、大《おおき》な提灯の中が私の家《うち》です。」
「ええ。」と云ったが、大概察した。この上尋ねるのは無益である。
「お名は。」
「私? 名ですか。娘……」
「娘子《むすめこ》さん。――成程違いない、で、お年紀《とし》は?」
「年は、婆さん。」
「年は婆さん、お名は娘、住所《ところ》は提灯の中でおいでなさる。……はてな、いや、分りました……が、お商売は。」
 と訊《き》いた。
 後に舟崎が語って言うよう――
 いかに、大の男が手玉に取られたのが口惜《くやし》いといって、親、兄、姉をこそ問わずもあれ、妙齢《としごろ》の娘に向って、お商売? はちと思切った。
 しかし、さもしいようではあるが、それには廻廊の紙幣《さつ》がある。
 その時、ちと更《あらた》まる
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