と嬉しそうに、なぜか仇気《あどけ》ない笑顔になった。

       七

「池があるんだわね。」
 と手を支《つ》いて、壁に着いたなりで細《ほっそ》りした頤《おとがい》を横にするまで下から覗《のぞ》いた、が、そこからは窮屈で水は見えず、忽然《こつぜん》として舳《へさき》ばかり顕《あら》われたのが、いっそ風情であった。
 カラカラと庭下駄が響く、とここよりは一段高い、上の石畳みの土間を、約束の出であろう、裾模様《すそもよう》の後姿で、すらりとした芸者が通った。
 向うの座敷に、わやわやと人声あり。
 枝折戸《しおりど》の外を、柳の下を、がさがさと箒《ほうき》を当てる、印半纏《しるしばんてん》の円い背《せなか》が、蹲《うずく》まって、はじめから見えていた。
 それには差構いなく覗いた女が、芸者の姿に、密《そっ》と、直ぐに障子を閉めた。
 向直った顔が、斜めに白い、その豌豆《えんどう》の花に面した時、眉を開いて、熟《じっ》と視《み》た。が、瞳を返して、右手《めて》に高い肱掛窓《ひじかけまど》の、障子の閉ったままなのを屹《きっ》と見遣《みや》った。
 咄嗟《とっさ》の間の艶麗《あでやか
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