》を待飽倦《まちあぐ》んだそうで、どやどやと横手の壇を下《お》り懸けて、
「お待遠《まちどお》だんべいや。」
 と、親仁がもっともらしい顔色《かおつき》して、ニヤリともしないで吐《ほざ》くと、女どもは哄《どっ》と笑って、線香の煙の黒い、吹上げの沫《しぶき》の白い、誰彼《たそが》れのような中へ、びしょびしょと入って行《ゆ》く。
 吃驚《びっくり》して、這奴等《しやつら》、田舎ものの風をする掏賊《すり》か、ポン引《ひき》か、と思った。軽くなった懐中《ふところ》につけても、当節は油断がならぬ。
 その時分まで、同じ処にぼんやりと立って待ったのである。

       六

 早く下りよ、と段はそこに階《きざはし》を明けて斜めに待つ。自分に恥じて、もうその上は待っていられないまでになった。
 端へ出るのさえ、後を慕って、紙幣《さつ》に引摺《ひきず》られるような負惜《まけおし》みの外聞があるので、角の処へも出ないでいた。なぜか、がっかりして、気が抜けて、その横手から下りて、路《みち》を廻るのも億劫《おっくう》でならぬので、はじめて、ふらふらと前へ出て、元の本堂前の廻廊を廻って、欄干について、前刻
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