た》から推着《おしつ》けに、あれそれとも極《き》められないから、とにかく、不承々々に、そうか、と一帆の頷《うなず》いたのは、しかし観世音の廻廊の欄干に、立並んだ時ではない。御堂《みどう》の裏、田圃《たんぼ》の大金《だいきん》の、とある数寄屋造《すきやづく》り[#「数寄屋造り」は底本では「敷寄屋造り」]の四畳半に、膳《ぜん》を並べて差向った折からで。……
もっとも事のそこへ運んだまでに、いささか気になる道行《みちゆき》の途中がある。
一帆は既に、御堂の上で、その女に、大形の紙幣《さつ》を一枚、紙入から抜取られていたのであった。
やっぱり練磨の手術《てわざ》であろう。
その時、扇子を手で圧《おさ》えて、貴下《あなた》は一人で歩行《ある》く方が、
「……お好《すき》な癖に……」
とそう云うから、一帆は肩を揺《ゆす》って、
「こうなっちやもう構やしません。是非相合傘にして頂く。」と威《おど》すように云って笑った。
「まあ、駄々《だだ》ッ児《こ》のようだわね。」
と莞爾《にっこり》して、
「貴方《あなた》、」と少し改まる。
「え。」
「あの、少々お持合わせがござんすか。」
と澄まし
前へ
次へ
全29ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング