づつ》? ではない。象牙骨《ぞうげぼね》の女扇を挿している。
今圧えた手は、帯が弛《ゆる》んだのではなく、その扇子《おうぎ》を、一息探く挿込んだらしかった。
五
紫の矢絣《やがすり》に箱迫《はこせこ》の銀のぴらぴらというなら知らず、闇桜《やみざくら》とか聞く、暗いなかにフト忘れたように薄紅《うすくれない》のちらちらする凄《すご》い好みに、その高島田も似なければ、薄い駒下駄に紺蛇目傘《こんじゃのめ》も肖《そぐ》わない。が、それは天気模様で、まあ分る。けれども、今時分、扇子《おうぎ》は余りお儀式過ぎる。……踊の稽古《けいこ》の帰途《かえり》なら、相応したのがあろうものを、初手《しょて》から素性のおかしいのが、これで愈々《いよいよ》不思議になった。
が、それもその筈《はず》、あとで身上《みじょう》を聞くと、芸人だと言う。芸人も芸人、娘手品《むすめてじな》、と云うのであった。
思い懸けず、余《あんま》り変ってはいたけれども、当人の女の名告《なの》るものを、怪しいの、疑わしいの、嘘言《うそ》だ、と云った処で仕方がない。まさか、とは考えるが、さて人の稼業である。此方《こな
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