とゞ》めむとする者無く、遠巻《とほまき》にして打騒ぎしのみ。殺尽《ころしつく》せしお村の死骸は、竹藪の中に埋棄《うづみす》てて、跡弔《あととむらひ》もせざりけり。
三
はじめお村を讒《ざん》ししお春は、素知らぬ顔にもてなしつゝ此家《このや》に勤め続けたり。人には奇癖のあるものにて、此《この》婦人《をんな》太《いた》く蜘蛛《くも》を恐れ、蜘蛛といふ名を聞きてだに、絶叫するほどなりければ、況《ま》して其物《そのもの》を見る時は、顔の色さへ蒼《あを》ざめて死せるが如《ごと》くなりしとかや。
お村が虐殺《なぶりごろし》に遭ひしより、七々日《なゝなぬか》にあたる夜半《よは》なりき。お春は厠《かはや》に起出《おきい》でつ、帰《かへり》には寝惚《ねぼ》けたる眼の戸惑《とまど》ひして、彼《かの》血天井の部屋へ入《い》りにき。それと遽《にはか》に心着《こゝろづ》けば、天窓《あたま》より爪先まで氷を浴ぶる心地して、歯の根も合はず戦《わなゝ》きつゝ、不気味に堪《た》へぬ顔を擡《あ》げて、手燭《ぼんぼり》の影|幽《かすか》に血の足痕《あしあと》を仰見《あふぎみ》る時しも、天井より糸を引きて一
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