きい》だせば、総身《そうしん》赤く腫《は》れたるに、紫斑々《しはん/\》の痕《あと》を印し、眼も中《あ》てられぬ惨状《ありさま》なり。
かくても未《いま》だ怒《いかり》は解けず、お村の後手《うしろで》に縛《くゝ》りたる縄の端《はし》を承塵《なげし》に潜《くぐ》らせ、天井より釣下《つりさ》げて、一太刀|斬附《きりつ》くれば、お村ははツと我に返りて、「殿、覚えておはせ、御身《おんみ》が命を取らむまで、妾《わらは》は死なじ」と謂はせも果てず、はたと首《かうべ》を討落《うちおと》せば、骸《むくろ》は中心を失ひて、真逆様《まつさかさま》になりけるにぞ、踵《かゝと》を天井に着けたりしが、血汐《ちしほ》は先刻《さきに》脛《はぎ》を伝ひて足の裏を染めたれば、其《そ》が天井に着くとともに、怨恨《うらみ》の血判《けつぱん》二つをぞ捺《お》したりける。此《この》一念の遺物《かたみ》拭《ぬぐ》ふに消えず、今に伝へて血天井と謂ふ。
人を殺すにも法こそあれ、旗野がお村を屠《ほふ》りし如きは、実に惨中の惨なるものなり。家に仕《つか》ふる者ども、其物音に駈附《かけつ》けしも、主人が血相に恐《おそれ》をなして、留《
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