れて置くと、死ぬ様な声を出して泣くもんだから――何時《いつ》だつけ、むゝ俺が誕生の晩だ――山田に何が泣いてるのだと問はれて冷汗を掻《か》いたぞ。貴様が法外な白痴《たはけ》だから己《おれ》に妹があると謂ふことは人に秘《かく》して居《を》る位《くらゐ》、山田の知らないのも道理《もつとも》だが、これ/\で意見をするとは恥かしくつて言はれもしない。それでも親の慈悲や兄の情《なさけ》で何《ど》うかして学校へも行《ゆ》く様に真人間にして遣《や》りたいと思へばこそ性懲《しやうこり》を附《つ》けよう為に、昨夜《ゆうべ》だつて左様《さう》だ、一晩裸にして夜着《よぎ》も被《き》せずに打棄《うつちや》つて置いたのだ。すると何うだ、己《おれ》にお謝罪《わび》をすれば未《まだ》しも可愛気《かはいげ》があるけれど、いくら寒いたつて余《あんま》りな、山田の寝床へ潜込《もぐりこ》みに行《い》きをつた。彼《あれ》が妖怪《ばけもの》と思違ひをして居るのも否《いや》とは謂はれぬ。妖怪より余程《よつぽど》怖い馬鹿だもの、今夜はもう意見をするんぢやあないから謝罪《わび》たつて承知はしない、撲殺《なぐりころ》すのだから左様思へ」
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