と笞《しもと》の音ひうと鳴りて肉を鞭《むちう》つ響《ひゞき》せり。女《むすめ》はひい/\と泣きながら、「姉様|謝罪《おわび》をして頂戴よう、あいたゝ、姉様よう」と、哀《あはれ》なる声にて助《たすけ》を呼ぶ。
 今姉さんと呼ばれしは松川の細君なり。「これまで幾度謝罪をして進《あ》げましても、お前様の料簡が直らないから、もうもう何と謂つたつて御肯入《おきゝい》れなさらない、妾《わたし》が謂つたつて所詮《しよせん》駄目です、あゝ、余り酷《ひど》うございますよ。少し御手柔《おてやはらか》に遊ばせ、あれ/\それぢやあ真個《ほんと》に死んでしまひますわね、母様、もし旦那つてば、御二人で御折檻なさるから仕様《しやう》が無い、えゝ何《ど》うせうね、一寸《ちよつと》来て下《くだ》さい」と声震はし「山田さん、山田さん」我を呼びしは、さては是《これ》か。



底本:「日本の名随筆 別巻64 怪談」作品社
   1996(平成8)年6月25日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十七卷」岩波書店
   1942(昭和17)年10月
※疑問点の確認、修正に当たっては、親本を参照しました。
入力:土屋隆
校正
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