数知れず根競《こんくらべ》と思つて意見をしても少しも料簡《れうけん》が直らない、道で遊んで居ては人眼に立つと思ふかして途方も無い学校へ行くてつちやあ家《うち》を出て、此頃《このごろ》は庭の竹藪に隠れて居る。此間《このあひだ》見着《みつ》けた時には、腹は立たないで涙が出たぞ」と切歯《はがみ》をなして憤《いきどほ》る。
傍《かたはら》より老いたる婦人《をんな》の声として「これお長《ちやう》、母様《おつかさん》のいふ事も兄様《にいさん》のおつしやる事もお前は合点《がてん》が行《ゆ》かないかい、狂気《きちがひ》の様《やう》な娘を持つた私《わたし》や何《なん》といふ因果であらうね。其癖《そのくせ》、犬に吠えられた時、お弁当のお菜《さい》を遣《や》つて口塞《くちふさぎ》をした気転なんぞ、満更《まんざら》の馬鹿でも無いに」と愚痴《ぐち》を零《こぼ》す[#ルビの「こぼ(す)」は底本では「にぼ(す)」]は母親ならむ。
松川は腹立たしげに「其《それ》が馬鹿智慧と謂ふもんだ、馬鹿に小才《こさい》のあるのはまるつきりの馬鹿よりなほ不可《いけな》い。彼《あ》の時藪の中から引摺出《ひきずりだ》して押入の中へ入
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