もう/\》として我我《われわれ》を弁《べん》ぜず、所謂《いはゆる》無現《むげん》の境《きやう》にあり。時《とき》に予が寝《い》ねたる室《しつ》の襖《ふすま》の、スツとばかりに開く音せり。否《いな》唯《たゞ》音のしたりと思へるのみ、別に誰《た》そやと問ひもせず、はた起直《おきなほ》りて見むともせず、うつら/\となし居《を》れり。然《さ》るにまた畳を摺来《すりく》る跫音《あしおと》聞《きこ》えて、物あり、予が枕頭《ちんとう》に近寄る気勢《けはひ》す、はてなと思ふ内に引返《ひつかへ》せり。少時《しばらく》してまた来《きた》る、再び引返せり、三たびせり。
此《こゝ》に於て予は猛然と心覚めて、寝返りしつゝ眼《まなこ》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》き、不図《ふと》一見《いつけん》して蒼《あを》くなりぬ。予は殆《ほとん》ど絶《ぜつ》せむとせり、そも何者の見えしとするぞ、雪もて築ける裸体《らたい》の婦人《をんな》、あるが如《ごと》く無きが如き灯《ともしび》の蔭に朦朧《もうろう》と乳房のあたりほの見えて描ける如く彳《たゝず》めり。
予は叫ばむとするに声|出《い》でず、蹶起《は
前へ
次へ
全29ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング