《をどりかゝ》りて、えいと殺《そ》ぎたる竹の切口《きりくち》、斜《なゝめ》に尖《とが》れる切先《きつさき》に転《まろ》べる胸を貫きて、其場に命を落せしとぞ。仏家《ぶつけ》の因果は是《これ》ならむかし。
旗野の主人果てて後《のち》、代《よ》を襲《つ》ぐ子とても無かりければ、やがて其《その》家《いへ》は断絶《たえ》にけり。
数歳《すさい》の星霜を経て、今松川の塾となれるまで、種々《さま/″\》人の住替《すみかは》りしが、一月《ひとつき》居《ゐ》しは皆無にて、多きも半月を過ぐるは無し。甚《はなは》だしきに到りては、一夜《ひとよ》を超えて引越せしもあり。松川|彼処《かしこ》に住《すま》ひてより、別に変《かは》りしこともなく、二月《ふたつき》余も落着《おちつ》けるは、いと珍しきことなりと、近隣《きんりん》の人は噂《うはさ》せり。さりながらはじめの内は十幾人《じふいくたり》の塾生ありて、教場《けうぢやう》太《いた》く賑ひしも、二人《ふたり》三人《みたり》と去りて、果《はて》は一人《いちにん》もあらずなりて、後《のち》にはたゞ昼《ひる》の間《うち》通学生の来るのみにて、塾生は我《われ》一人《いち
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