りあひら》がいかに怒《いか》りしか、いかに罵《のゝし》りしかを、渠《かれ》は眠《ねむ》りて知《し》らざりしなり。

        下

 恁《かく》て、數時間《すうじかん》を經《へ》たりし後《のち》、身邊《あたり》の人聲《ひとごゑ》の騷《さわ》がしきに、旅僧《たびそう》は夢《ゆめ》破《やぶ》られて、唯《と》見《み》れば變《かは》り易《やす》き秋《あき》の空《そら》の、何時《いつ》しか一面《いちめん》掻曇《かきくも》りて、暗澹《あんたん》たる雲《くも》の形《かたち》の、凄《すさま》じき飛天夜叉《ひてんやしや》の如《ごと》きが縱横無盡《じうわうむじん》に馳《は》せ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《まは》るは、暴風雨《あらし》の軍《いくさ》を催《もよほ》すならむ、其《その》一團《いちだん》は早《はや》く既《すで》に沿岸《えんがん》の山《やま》の頂《いたゞき》に屯《たむろ》せり。
 風《かぜ》一陣《ひとしきり》吹《ふ》き出《い》でて、船《ふね》の動搖《どうえう》良《やゝ》激《はげ》しくなりぬ。恁《かく》の如《ごと》き風雲《ふううん》は、加能丸《かのうまる》既往《きわう》の航海史上《
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