ですぜ。」
と渠《かれ》は良《やゝ》怒《いかり》を帶《お》びて聲高《こわだか》になりぬ。旅僧《たびそう》は少《すこ》しも騷《さわ》がず、
「成程《なるほど》、船《ふね》に居《ゐ》て暴風雨《あれ》に逢《あ》へば、船《ふね》が覆《かへ》るとでも謂《い》ふ事《こと》かの。」
「知《し》れたこツたわ。馬鹿々々《ばか/\》しい。」
渠《かれ》の次第《しだい》に急込《せきこ》むほど、旅僧《たびそう》は益《ますま》す落着《おちつ》きぬ。
「して又《また》、船《ふね》が覆《かへ》れば生命《いのち》を落《おと》さうかと云《い》ふ、其《そ》の心配《しんぱい》かな。いや詰《つま》らぬ心配《しんぱい》ぢや。お前《まへ》さんは何《なに》か(人相見《にんさうみ》)に、水難《すゐなん》の相《さう》があるとでも言《い》はれたことがありますかい。まづ/\聞《き》きなさい。さも無《な》ければ那樣《そんな》ことを恐《こは》がると云《い》ふ理窟《りくつ》がないて。一體《いつたい》お前《まへ》さんに限《かぎ》らず、乘合《のりあひ》の方々《かた/″\》も又《また》然《さ》うぢや、初手《しよて》から然《さ》ほど生命《いのち》が
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