なものほど、生命《いのち》が案《あん》じられるでな、船《ふね》が恁《か》うぐつと傾《かたむ》く度《たび》に、はツ/\と冷《つめた》い汗《あせ》が出《で》る。さてはや、念佛《ねんぶつ》、題目《だいもく》、大聲《おほごゑ》に鯨波《とき》の聲《こゑ》を揚《あ》げて唸《うな》つて居《ゐ》たが、やがて其《それ》も蚊《か》の鳴《な》くやうに弱《よわ》つてしまふ。取亂《とりみだ》さぬ者《もの》は一人《ひとり》もない。
恁《かう》云《い》ふ私《わし》が矢張《やはり》その、おい/\泣《な》いた連中《れんぢう》でな、面目《めんぼく》もないこと。
昔《むかし》彼《か》の文覺《もんがく》と云《い》ふ荒法師《あらほふし》は、佐渡《さど》へ流《なが》される船路《みち》で、暴風雨《あれ》に會《あ》つたが、船頭水夫共《せんどうかこども》が目《め》の色《いろ》を變《か》へて騷《さわ》ぐにも頓着《とんぢやく》なく、大《だい》の字《じ》なりに寢《ね》そべつて、雷《らい》の如《ごと》き高鼾《たかいびき》ぢや。
すると船頭共《せんどうども》が、「恁※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−5
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