》は、船《ふね》の出懸《でが》けから暴風雨模樣《あれもやう》でな、風《かぜ》も吹《ふ》く、雨《あめ》も降《ふ》る。敦賀《つるが》の宿《やど》で逡巡《しりごみ》して、逗留《とうりう》した者《もの》が七|分《ぶ》あつて、乘《の》つたのはまあ三|分《ぶ》ぢやつた。私《わし》も其時分《そのじぶん》は果敢《はか》ない者《もの》で、然《さう》云《い》ふ天氣《てんき》に船《ふね》に乘《の》るのは、實《じつ》は二《に》の足《あし》の方《はう》であつたが。出家《しゆつけ》の身《み》で生命《いのち》を惜《をし》むかと、人《ひと》の思《おも》はくも恥《はづ》かしくて、怯氣々々《びく/\》もので乘込《のりこ》みましたぢや。さて段々《だん/\》船《ふね》の進《すゝ》むほど、風《かぜ》は荒《あら》くなる、波《なみ》は荒《あ》れる、船《ふね》は搖《ゆ》れる。其《その》又《また》搖《ゆ》れ方《かた》と謂《い》うたら一通《ひととほり》でなかつたので、吐《は》くやら、呻《うめ》くやら、大苦《おほくるし》みで正體《しやうたい》ない者《もの》が却《かへ》つて可羨《うらやま》しいくらゐ、と云《い》ふのは、氣《き》の確《たしか》
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