れど、不断はこなたより遠ざかりしが、その時は先にあまり淋《さび》しくて、友|欲《ほ》しき念の堪《た》へがたかりしその心のまだ失せざると、恐しかりしあとの楽しきとに、われは拒《こば》まずして頷《うなず》きぬ。
児《こ》どもはさざめき喜びたりき。さてまたかくれあそびを繰返すとて、拳《けん》してさがすものを定めしに、われその任にあたりたり。面《おもて》を蔽《おお》へといふままにしつ。ひツそとなりて、堂の裏崖《うらがけ》をさかさに落つる滝の音どうどうと松杉《まつすぎ》の梢《こずえ》ゆふ風に鳴り渡る。かすかに、
「もう可《い》いよ、もう可いよ。」
と呼ぶ声、谺《こだま》に響けり。眼をあくればあたり静まり返りて、たそがれの色また一際《ひときわ》襲ひ来《きた》れり。大《おおい》なる樹のすくすくとならべるが朦朧《もうろう》としてうすぐらきなかに隠れむとす。
声したる方《かた》をと思ふ処《ところ》には誰《たれ》もをらず。ここかしこさがしたれど人らしきものあらざりき。
また旧《もと》の境内《けいだい》の中央に立ちて、もの淋しく瞶《みまわ》しぬ。山の奥にも響くべく凄《すさま》じき音して堂の扉を鎖《と
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