竜潭譚
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)躑躅《つつじ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五、六尺|隔《へだ》てたる

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+阿」、第4水準2−4−5]呀《あなや》
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     躑躅《つつじ》か丘《おか》

 日は午《ご》なり。あらら木《ぎ》のたらたら坂に樹《き》の蔭もなし。寺の門《もん》、植木屋の庭、花屋の店など、坂下を挟《さしはさ》みて町の入口にはあたれど、のぼるに従ひて、ただ畑《はた》ばかりとなれり。番小屋めきたるもの小だかき処《ところ》に見ゆ。谷には菜《な》の花《はな》残りたり。路《みち》の右左、躑躅《つつじ》の花の紅《くれない》なるが、見渡す方《かた》、見返る方《かた》、いまを盛《さかり》なりき。ありくにつれて汗《あせ》少しいでぬ。
 空よく晴れて一点の雲もなく、風あたたかに野面《のづら》を吹けり。
 一人にては行《ゆ》くことなかれと、優《やさ》しき姉上のいひたりしを、肯
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