《き》かで、しのびて来つ。おもしろきながめかな。山の上の方《かた》より一束《ひとたば》の薪《たきぎ》をかつぎたる漢《おのこ》おり来《きた》れり。眉《まゆ》太く、眼《め》の細きが、向《むこう》ざまに顱巻《はちまき》したる、額《ひたい》のあたり汗になりて、のしのしと近づきつつ、細き道をかたよけてわれを通せしが、ふりかへり、
「危ないぞ危ないぞ。」
 といひずてに眦《まなじり》に皺《しわ》を寄せてさつさつと行過《ゆきす》ぎぬ。
 見返ればハヤたらたらさがりに、その肩《かた》躑躅《つつじ》の花にかくれて、髪《かみ》結《ゆ》ひたる天窓《あたま》のみ、やがて山蔭《やまかげ》に見えずなりぬ。草がくれの径《こみち》遠く、小川流るる谷間《たにあい》の畦道《あぜみち》を、菅笠《すげがさ》冠《かむ》りたる婦人《おんな》の、跣足《はだし》にて鋤《すき》をば肩にし、小さき女《むすめ》の児《こ》の手をひきて彼方《あなた》にゆく背姿《うしろすがた》ありしが、それも杉の樹立《こだち》に入りたり。
 行《ゆ》く方《かた》も躑躅なり。来《こ》し方《かた》も躑躅なり。山土《やまつち》のいろもあかく見えたる。あまりうつくしさ
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