井戸の裏、堂の奥、廻廊の下よりして、五ツより八《や》ツまでなる児《こ》の五、六人|前後《あとさき》に走り出《い》でたり、こはかくれ遊びの一人《いちにん》が見いだされたるものぞとよ。二人三人《ふたりみたり》走り来て、わが其処《そこ》に立てるを見つ。皆|瞳《ひとみ》を集めしが、
「お遊びな、一所《いつしよ》にお遊びな。」とせまりて勧めぬ。小家《こいえ》あちこち、このあたりに住むは、かたゐといふものなりとぞ。風俗少しく異なれり。児《こ》どもが親たちの家|富《と》みたるも好《よ》き衣《きぬ》着たるはあらず、大抵《たいてい》跣足《はだし》なり。三味線《さみせん》弾《ひ》きて折々《おりおり》わが門《かど》に来《きた》るもの、溝川《みぞかわ》に鰌《どじよう》を捕ふるもの、附木《つけぎ》、草履《ぞうり》など鬻《ひさ》ぎに来るものだちは、皆この児《こ》どもが母なり、父なり、祖母などなり。さるものとはともに遊ぶな、とわが友は常に戒《いまし》めつ。さるに町方《まちかた》の者としいへば、かたゐなる児《こ》ども尊《とうと》び敬ひて、頃刻《しばらく》もともに遊ばんことを希《こいねが》ふや、親しく、優しく勉めてすな
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