木戸のあき地にて、むかひに小さき稲荷《いなり》の堂あり。石の鳥居《とりい》あり。木の鳥居あり。この木の鳥居の左の柱には割れめありて太き鉄の輪を嵌《は》めたるさへ、心たしかに覚えある、ここよりはハヤ家に近しと思ふに、さきの恐しさは全く忘れ果てつ。ただひとへにゆふ日照りそひたるつつじの花の、わが丈《たけ》よりも高き処《ところ》、前後左右を咲埋《さきうず》めたるあかき色のあかきがなかに、緑と、紅《くれない》と、紫と、青白《せいはく》の光を羽色《はいろ》に帯びたる毒虫のキラキラと飛びたるさまの広き景色のみぞ、画《え》の如く小さき胸にゑがかれける。
かくれあそび
さきにわれ泣きいだして救《すくい》を姉にもとめしを、渠《かれ》に認められしぞ幸《さいわい》なる。いふことを肯《き》かで一人いで来《き》しを、弱りて泣きたりと知られむには、さもこそとて笑はれなむ。優《やさ》しき人のなつかしけれど、顔をあはせていひまけむは口惜《くちお》しきに。
嬉《うれ》しく喜ばしき思ひ胸にみちては、また急に家に帰らむとはおもはず。ひとり境内《けいだい》に彳《たたず》みしに、わツといふ声、笑ふ声、木の蔭、
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