みずし》のなかに尊《とうと》き像《すがた》こそ拝まれたれ。一段高まる経の声、トタンにはたたがみ天地《てんち》に鳴りぬ。
 端厳微妙《たんげんみみよう》のおんかほばせ、雲の袖《そで》、霞《かすみ》の袴《はかま》ちらちらと瓔珞《ようらく》をかけたまひたる、玉《たま》なす胸に繊手《せんしゆ》を添へて、ひたと、をさなごを抱《いだ》きたまへるが、仰《あお》ぐ仰ぐ瞳《ひとみ》うごきて、ほほゑみたまふと、見たる時、やさしき手のさき肩にかかりて、姉上は念じたまへり。
 滝やこの堂にかかるかと、折しも雨の降りしきりつ。渦《うずま》いて寄する風の音、遠き方《かた》より呻《うな》り来て、どつと満山《まんざん》に打《うち》あたる。
 本堂|青光《あおびかり》して、はたたがみ堂の空をまろびゆくに、たまぎりつつ、今は姉上を頼までやは、あなやと膝《ひざ》にはひあがりて、ひしとその胸を抱《いだ》きたれば、かかるものをふりすてむとはしたまはで、あたたかき腕《かいな》はわが背《せな》にて組合《くみあ》はされたり。さるにや気も心もよわよわとなりもてゆく、ものを見る明《あきら》かに、耳の鳴るがやみて、恐しき吹降《ふきぶ》りの
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