《ここち》死ぬべくなれりしを、うつらうつら舁《か》きあげられて高き石壇をのぼり、大《おおい》なる門を入りて、赤土《あかつち》の色きれいに掃《は》きたる一条《ひとすじ》の道長き、右左、石燈籠《いしどうろう》と石榴《ざくろ》の樹の小さきと、おなじほどの距離にかはるがはる続きたるを行《ゆ》きて、香《こう》の薫《かおり》しみつきたる太き円柱《まるばしら》の際《きわ》に寺の本堂に据《す》ゑられつ、ト思ふ耳のはたに竹を破《わ》る響《ひびき》きこえて、僧ども五三人《ごさんにん》一斉に声を揃《そろ》へ、高らかに誦《じゆ》する声耳を聾《ろう》するばかり喧《かし》ましさ堪《た》ふべからず、禿顱《とくろ》ならびゐる木のはしの法師ばら、何をかすると、拳《こぶし》をあげて一|人《にん》の天窓《あたま》をうたむとせしに、一幅《ひとはば》の青き光|颯《さつ》と窓を射て、水晶の念珠《ねんじゆ》瞳《ひとみ》をかすめ、ハツシと胸をうちたるに、ひるみて踞《うずく》まる時、若僧《じやくそう》円柱《えんちゆう》をいざり出《い》でつつ、ついゐて、サラサラと金襴《きんらん》の帳《とばり》を絞《しぼ》る、燦爛《さんらん》たる御廚子《
前へ 次へ
全41ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング