へて姉上はまろび入りて、ひしと取着《とりつ》きたまひぬ。ものはいはでさめざめとぞ泣きたまへる、おん情《なさけ》手《て》にこもりて抱《いだ》かれたるわが胸|絞《しぼ》らるるやうなりき。
 姉上の膝に臥《ふ》したるあひだに、医師|来《きた》りてわが脈をうかがひなどしつ。叔父は医師とともに彼方《あなた》に去りぬ。
「ちさや、どうぞ気をたしかにもつておくれ。もう姉様《ねえさん》はどうしようね。お前、私だよ。姉さんだよ。ね、わかるだらう、私だよ。」
 といきつくづくぢつとわが顔をみまもりたまふ、涙痕《るいこん》したたるばかりなり。
 その心の安んずるやう、強《し》ひて顔つくりてニツコと笑うて見せぬ。
「おお、薄気味《うすきみ》が悪いねえ。」
 と傍《かたわら》にありたる奈四郎《なしろう》の妻なる人|呟《つぶや》きて身ぶるひしき。
 やがてまた人々われを取巻《とりま》きてありしことども責むるが如くに問ひぬ。くはしく語りて疑《うたがい》を解かむとおもふに、をさなき口の順序正しく語るを得むや、根問《ねど》ひ、葉問《はど》ひするに一々《いちいち》説明《ときあ》かさむに、しかもわれあまりに疲れたり。うつつ
前へ 次へ
全41ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング