うゆう》と羽《は》づくろひす。憎しと思ふ心を籠《こ》めて瞻《みまも》りたれば、虫は動かずなりたり。つくづく見れば羽蟻《はあり》の形して、それよりもやや大《おおい》なる、身はただ五彩《ごさい》の色を帯びて青みがちにかがやきたる、うつくしさいはむ方《かた》なし。
色彩あり光沢《こうたく》ある虫は毒なりと、姉上の教へたるをふと思ひ出《い》でたれば、打置《うちお》きてすごすごと引返《ひつかえ》せしが、足許《あしもと》にさきの石の二《ふた》ツに砕《くだ》けて落ちたるより俄《にわか》に心動き、拾ひあげて取つて返し、きと毒虫をねらひたり。
このたびはあやまたず、したたかうつて殺しぬ。嬉《うれ》しく走りつきて石をあはせ、ひたと打《うち》ひしぎて蹴飛《けと》ばしたる、石は躑躅《つつじ》のなかをくぐりて小砂利《こじやり》をさそひ、ばらばらと谷深くおちゆく音しき。
袂《たもと》のちり打《うち》はらひて空を仰《あお》げば、日脚《ひあし》やや斜《ななめ》になりぬ。ほかほかとかほあつき日向《ひなた》に唇かわきて、眼のふちより頬のあたりむず痒《がゆ》きこと限りなかりき。
心着《こころづ》けば旧来《もとき》し
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