。」とて静《しずか》に雨戸をひきたまひき。

     九《ここの》ツ谺《こだま》

 やがて添臥《そいぶし》したまひし、さきに水を浴びたまひし故《ゆえ》にや、わが膚《はだ》をりをり慄然《りつぜん》たりしが何の心もなうひしと取縋《とりすが》りまゐらせぬ。あとをあとをといふに、をさな物語|二《ふた》ツ三《み》ツ聞かせ給《たま》ひつ。やがて、
「一《ひと》ツ谺《こだま》、坊や、二《ふた》ツ谺《こだま》といへるかい。」
「二ツ谺。」
「三《み》ツ谺《こだま》、四《よ》ツ谺《こだま》といつて御覧。」
「四ツ谺。」
「五《いつ》ツ谺《こだま》。そのあとは。」
「六《む》ツ谺《こだま》。」
「さうさう七《なな》ツ谺《こだま》。」
「八《や》ツ谺《こだま》。」
「九《ここの》ツ谺《こだま》――ここはね、九《ここの》ツ谺《こだま》といふ処《ところ》なの。さあもうおとなにして寝るんです。」
 背に手をかけ引寄《ひきよ》せて、玉《たま》の如きその乳房《ちぶさ》をふくませたまひぬ。露《あらわ》に白き襟《えり》、肩のあたり鬢《びん》のおくれ毛はらはらとぞみだれたる、かかるさまは、わが姉上とは太《いた》く違へり
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