《たま》ちるあたりに盥《たらい》を据ゑて、うつくしく髪《かみ》結《ゆ》うたる女《ひと》の、身に一糸もかけで、むかうざまにひたりてゐたり。
筧《かけい》の水はそのたらひに落ちて、溢《あふ》れにあふれて、地の窪《くぼ》みに流るる音しつ。
蝋《ろう》の灯《ひ》は吹くとなき山おろしにあかくなり、くらうなりて、ちらちらと眼に映ずる雪なす膚《はだえ》白かりき。
わが寝返《ねがえ》る音に、ふとこなたを見返り、それと頷《うなず》く状《さま》にて、片手をふちにかけつつ片足を立てて盥《たらい》のそとにいだせる時、颯《さ》と音して、烏《からす》よりは小さき鳥の真白《ましろ》きがひらひらと舞ひおりて、うつくしき人の脛《はぎ》のあたりをかすめつ。そのままおそれげもなう翼を休めたるに、ざぶりと水をあびせざま莞爾《につこ》とあでやかに笑うてたちぬ。手早く衣《きぬ》もてその胸をば蔽《おお》へり。鳥はおどろきてはたはたと飛去《とびさ》りぬ。
夜の色は極めてくらし、蝋《ろう》を取りたるうつくしき人の姿さやかに、庭下駄《にわげた》重く引く音しつ。ゆるやかに縁《えん》の端に腰をおろすとともに、手をつきそらして捩向《ね
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