承攬《にょかしょうらん》
[#ここで字下げ終わり]

       二

「否《いいえ》、山さえお暴《あら》しなさいませねば、誰方《どなた》がおいでなさいましても、大事ないそうでございます。薬の草もあります上は、毒な草もないことはございません。無暗《むやみ》な者が採りますと、どんな間違《まちがい》になろうも知れませんから、昔から禁札《きんさつ》が打ってあるのでございましょう。
 貴方《あなた》は、そうして御経《おきょう》をお読み遊ばすくらい、縦令《たとい》お山で日が暮れても些《ちっ》ともお気遣《きづかい》な事はございますまいと存じます。」
 言いかけてまた近《ちかづ》き、
「あのさようなら、貴方《あなた》はお薬になる草を採りにおいでなさるのでござんすかい。」
「少々《しょうしょう》無理な願《ねがい》ですがね、身内に病人があって、とても医者の薬では治《なお》らんに極《きま》ったですから、この医王山でなくって外《ほか》にない、私が心当《こころあたり》の薬草を採りに来たんだが、何、姉《ねえ》さんは見懸《みか》けた処《ところ》、花でも摘みに上《あが》るんですか。」
「御覧の通《とおり》、花を売
前へ 次へ
全59ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング