、行通《ゆきかよい》がないのだろう。」
「それは、あの承《うけたまわ》りますと、昔から御領主の御禁山《おとめやま》で、滅多《めった》に人をお入れなさらなかった所為《せい》なんでございますって。御領主ばかりでもござんせん。結構な御薬《おくすり》の採れます場所は、また御守護の神々《かみがみ》仏様《ほとけさま》も、出入《ではいり》をお止《と》め遊ばすのでございましょうと存じます。」
 譬《たと》えば仙境《せんきょう》に異霊《いれい》あって、恣《ほしいまま》に人の薬草を採る事を許さずというが如く聞えたので、これが少《すくな》からず心に懸《かか》った。
「それでは何か、私《わたし》なんぞが入って行って、欲《ほし》い草を取って帰っては悪いのか。」
 と高坂はやや気色《けしき》ばんだが、悚然《ぞっ》と肌寒《はださむ》くなって、思わず口の裡《うち》で、
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慧雲含潤《えうんがんじゅん》  電光晃耀《でんこうこうよう》  雷声遠震《らいじょうおんしん》  令衆悦予《れいじゅえつよ》
日光掩蔽《にっこうおんぺい》  地上清涼《ちじょうしょうりょう》  靉靆垂布《あいたいすいぶ》  如可
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