りますものでござんす。二日置き、三日|置《おき》に参って、お山の花を頂いては、里へ持って出て商《あきな》います、丁《ちょう》ど唯今《ただいま》が種々《いろいろ》な花盛《はなざかり》。
 千蛇《せんじゃ》が池《いけ》と申しまして、頂《いただき》に海のような大《おおき》な池がございます。そしてこの山路《やまみち》は何処《どこ》にも清水なぞ流れてはおりません。その代《かわり》暑い時、咽喉《のど》が渇《かわ》きますと、蒼《あお》い小《ちいさ》な花の咲きます、日蔭《ひかげ》の草を取って、葉の汁《つゆ》を噛《か》みますと、それはもう、冷《つめた》い水を一斗《いっと》ばかりも飲みましたように寒うなります。それがないと凌《しの》げませんほど、水の少い処《ところ》ですから、菖蒲《あやめ》、杜若《かきつばた》、河骨《こうほね》はござんせんが、躑躅《つつじ》も山吹《やまぶき》も、あの、牡丹《ぼたん》も芍薬《しゃくやく》も、菊の花も、桔梗《ききょう》も、女郎花《おみなえし》でも、皆《みんな》一所《いっしょ》に開いていますよ、この六月から八月の末《すえ》時分まで。その牡丹だの、芍薬だの、結構な花が取れますから、
前へ 次へ
全59ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング