それにくれるのが優《やさ》しげなお婆さん。
 地《つち》が性《しょう》に合うで好《よ》う出来るが、まだこの村でも初物《はつもの》じゃという、それを、空腹《すきばら》へ三つばかり頬張《ほおば》りました。熱い汁《つゆ》が下腹《したばら》へ、たらたらと染《し》みた処《ところ》から、一睡《ひとねむり》して目が覚めると、きやきや痛み出して、やがて吐くやら、瀉《くだ》すやら、尾籠《びろう》なお話だが七顛八倒《しちてんはっとう》。能《よく》も生きていられた事と、今でも思うです。しかし、もうその時は、命の親の、優しい手に抱かれていました。世にも綺麗《きれい》な娘で。
 人心地《ひとごこち》もなく苦しんだ目が、幽《かすか》に開《あ》いた時、初めて見た姿は、艶《つやや》かな黒髪《くろかみ》を、男のような髷《まげ》に結んで、緋縮緬《ひぢりめん》の襦袢《じゅばん》を片肌《かたはだ》脱いでいました。日が経《た》って医王山へ花を採りに、私の手を曳《ひ》いて、楼《たかどの》に朱の欄干《てすり》のある、温泉宿を忍んで裏口から朝月夜《あさづきよ》に、田圃道《たんぼみち》へ出た時は、中形《ちゅうがた》の浴衣《ゆかた》に襦
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