した。位置は変って、川の反対《むこう》の方に見えて来た、なるほど渡《わたし》を渡らねばなりますまい。
足を圧《おさ》えた片手を後《うしろ》へ、腰の両提《ふたつさげ》の中をちゃらちゃらさせて、爺様《じさま》頼んます、鎮守《ちんじゅ》の祭礼《まつり》を見に、頼まれた和郎《わろ》じゃ、と言うと、船を寄せた老人《としより》の腰は、親仁《おやじ》の両提《ふたつさげ》よりもふらふらして干柿《ほしがき》のように干《ひ》からびた小さな爺《じじい》。
やがて綱に掴《つか》まって、縋《すが》ると疾《はや》い事!
雀《すずめ》が鳴子《なるこ》を渡るよう、猿が梢《こずえ》を伝うよう、さらさら、さっと。」
高坂は思わず足踏《あしぶみ》をした、草の茂《しげり》がむらむらと揺《ゆら》いで、花片《はなびら》がまたもや散り来る――二片三片《ふたひらみひら》、虚空《おおぞら》から。――
「左右へ傾く舷《ふなばた》へ、流《ながれ》が蒼く搦《から》み着いて、真白に颯《さっ》と翻《ひるがえ》ると、乗った親仁も馴れたもので、小児《こども》を担《かつ》いだまま仁王立《におうだち》。
真蒼《まっさお》な水底《みなそこ》へ、
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