、白壁《しらかべ》の見《み》ゆる土藏《どざう》をあてに他《た》の畦《あぜ》を突切《つツき》るに、ちよろ/\水《みづ》のある中《なか》に紫《むらさき》の花《はな》の咲《さ》いたる草《くさ》あり。綺麗《きれい》といひて見返勝《みかへりがち》、のんきにうしろ歩行《あるき》をすれば、得《え》ならぬ臭《にほひ》、細《ほそ》き道《みち》を、肥料室《こやしむろ》の挾撃《はさみうち》なり。目《め》を眠《ねむ》つて吶喊《とつかん》す。既《すで》にして三島神社《みしまじんじや》の角《かど》なり。
 亡《なく》なつた一葉女史《いちえふぢよし》が、たけくらべといふ本《ほん》に、狂氣街道《きちがひかいだう》といつたのは是《これ》から前《さき》ださうだ、うつかりするな、恐《おそろ》しいよ、と固《かた》く北八《きたはち》を警戒《けいかい》す。
 やあ汚《きたね》え溝《どぶ》だ。恐《おそろ》しい石灰《いしばひ》だ。酷《ひど》い道《みち》だ。三階《さんがい》があるぜ、浴衣《ゆかた》ばかしの土用干《どようぼし》か、夜具《やぐ》の裏《うら》が眞赤《まつか》な、何《なん》だ棧橋《さんばし》が突立《つツた》つてら。叱《しつ》!
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