默《だま》つて/\と、目《め》くばせして、衣紋坂《えもんざか》より土手《どて》に出《い》でしが、幸《さいは》ひ神田《かんだ》の伯父《をぢ》に逢《あ》はず、客待《きやくまち》の車《くるま》と、烈《はげ》しい人通《ひとどほり》の眞晝間《まつぴるま》、露店《ほしみせ》の白《しろ》い西瓜《すゐくわ》、埃《ほこり》だらけの金鍔燒《きんつばやき》、おでんの屋臺《やたい》の中《なか》を拔《ぬ》けて柳《やなぎ》の下《した》をさつ/\と行《ゆ》く。實《じつ》は土手《どて》の道哲《だうてつ》に結縁《けちえん》して艷福《えんぷく》を祈《いの》らばやと存《ぞん》ぜしが、まともに西日《にしび》を受《う》けたれば、顏《かほ》がほてつて我慢《がまん》ならず、土手《どて》を行《ゆ》くこと纔《わづか》にして、日蔭《ひかげ》の田町《たまち》へ遁《に》げて下《お》りて、さあ、よし。北八《きたはち》大丈夫《だいぢやうぶ》だ、と立直《たちなほ》つて悠然《いうぜん》となる。此邊《このあたり》小《こ》ぢんまりとしたる商賣《あきなひや》の軒《のき》ならび、しもたやと見《み》るは、産婆《さんば》、人相見《にんさうみ》、お手紙《てがみ
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