》したゝめ處《どころ》なり。一軒《いつけん》、煮染屋《にしめや》の前《まへ》に立《た》ちて、買物《かひもの》をして居《ゐ》た中年増《ちうどしま》の大丸髷《おほまるまげ》、紙《かみ》あまた積《つ》んだる腕車《くるま》を推《お》して、小僧《こぞう》三人《さんにん》向《むか》うより來懸《きかゝ》りしが、私語《しご》して曰《いは》く、見《み》ねえ、年明《ねんあけ》だと。
路《みち》に太郎稻荷《たらういなり》あり、奉納《ほうなふ》の手拭《てぬぐひ》堂《だう》を蔽《おほ》ふ、小《ちさ》き鳥居《とりゐ》夥多《おびたゞ》し。此處《こゝ》彼處《かしこ》露地《ろぢ》の日《ひ》あたりに手習草紙《てならひざうし》を干《ほ》したるが到《いた》る處《ところ》に見《み》ゆ、最《いと》もしをらし。それより待乳山《まつちやま》の聖天《しやうでん》に詣《まう》づ。
本堂《ほんだう》に額《ぬかづ》き果《は》てて、衝《つ》と立《た》ちて階《きざはし》の方《かた》に歩《あゆ》み出《い》でたるは、年紀《とし》はやう/\二十《はたち》ばかりと覺《おぼ》しき美人《びじん》、眉《まゆ》を拂《はら》ひ、鐵漿《かね》をつけたり。前垂《
前へ
次へ
全23ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング