ま》に立《た》つ湯氣《ゆげ》を見《み》れば掛茶屋《かけぢやや》なりけり。
 休《やす》ましておくれ、と腰《こし》をかけて一息《ひといき》つく。大分《だいぶ》お暖《あつたか》でございますと、婆《ばゞ》は銅《あかゞね》の大藥罐《おほやくわん》の茶《ちや》をくれる。床几《しやうぎ》の下《した》に俵《たはら》を敷《し》けるに、犬《いぬ》の子《こ》一匹《いつぴき》、其日《そのひ》の朝《あさ》より目《め》の見《み》ゆるものの由《よし》、漸《やつ》と食《しよく》づきましたとて、老年《としより》の餘念《よねん》もなげなり。折《をり》から子《こ》を背《せな》に、御新造《ごしんぞ》一人《いちにん》、片手《かたて》に蝙蝠傘《かうもりがさ》をさして、片手《かたて》に風車《かざぐるま》をまはして見《み》せながら、此《こ》の前《まへ》を通《とほ》り行《ゆ》きぬ。あすこが踏切《ふみきり》だ、徐々《そろ/\》出懸《でか》けようと、茶店《ちやてん》を辭《じ》す。
 何《ど》うだ北八《きたはち》、線路《せんろ》の傍《わき》の彼《あ》の森《もり》が鶯花園《あうくわゑん》だよ、畫《ゑ》に描《か》いた天女《てんによ》は賣藥《ば
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