《そのうへ》に、子抱《こかゝへ》の亭主《ていしゆ》と來《き》た日《ひ》には、こりや何時《いつ》までも見《み》せられたら、目《め》が眩《くら》まうも知《し》れぬぞと、あたふた百花園《ひやくくわゑん》を遁《に》げて出《で》る。
 白髯《しらひげ》の土手《どて》へ上《あが》るが疾《はや》いか、さあ助《たす》からぬぞ。二人乘《ににんのり》、小官員《こくわんゐん》と見《み》えた御夫婦《ごふうふ》が合乘《あひのり》也《なり》。ソレを猜《そね》みは仕《つかまつ》らじ。妬《や》きはいたさじ、何《なん》とも申《まを》さじ。然《さ》りながら、然《さ》りながら、同一《おなじ》く子持《こもち》でこれが又《また》、野郎《やらう》が膝《ひざ》にぞ抱《だ》いたりける。
 わツといつて駈《か》け拔《ぬ》けて、後《あと》をも見《み》ずに五六町《ごろくちやう》、彌次《やじ》さん、北八《きたはち》、と顏《かほ》を見合《みあ》はせ、互《たがひ》に無事《ぶじ》を祝《しゆく》し合《あ》ひ、まあ、ともかくも橋《はし》を越《こ》さう、腹《はら》も丁度《ちやうど》北山《きたやま》だ、筑波《つくば》おろしも寒《さむ》うなつたと、急足《い
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